・無理があると言われた配役 牧場の整地も(ほんのちょっとだけど)終わり、私は町長さんに教えてもらった町の牧場マスター小十郎さんなる人に牧場生活のイロハを教わることにした。なんでも今、小十郎さんは知り合いの女の子を預かっていて、そのこと二人きりで生活してるらしい。場所はうちのと隣、牧場マスターと呼ばれる限りすごい人なのだろうと期待に胸が膨らんだ。 しかし、まさかその道中で問題が発生していようとは思いもしなかった。 牧場を出て右、まっすぐ行った突き当りに小十郎さんの牧場はあるという。私は言われたとおりに曲がって真っすぐと向かったところ、なにやら言い争う声が聞こえてきた。 「何故だ半兵衛!我が……我がこんなにも……!」 「落ち着くんだ秀吉!もっと冷静に……」 どうやら声は養鶏場からのようだ。何があったのだろうか。 片方はやけにヒートアップして、もう片方はなんとか静めようと必死になっている。 しかしながら、会話のやり取りを聞く限りだと戦場で朋友を失った武将AとBの会話にしか聞こえない。なんだこの漢らしさ。 声の主がどんな屈強な戦士なのか気になった私は養鶏場を覗いてみようとした。が、その前に会話は更にヒートアップ。 「貴様のことなどもう知らぬ!我の事など放っておけばいい!」 「秀吉!」 会話が途切れたと同時に誰かがこっちに突進してきた。慌てて身を引くと、目の前を巨躯の男が山へ向かい若干内股乙女走りで全力疾走していっ(たように見え)た。何だか涙ぐんでいるようにも見えたがそこは敢えて気のせいだと言い張っておこう。うん、気のせいだ。 あまりにもショッキングな光景を見てしまい、開いた口が塞がらなかったのは言うまでもない。これは鏡の夢に出てくるパターンだ。なにより、どーやったらあの走りであのスピードが出せるのか気になる所だ。 と、ぼんやりしていると後ろに気配を感じた。振り向くといつの間にか私の背後には仮面の男が立っていた。 「ああ、すまない変なところを見られてしまったね」 「すいません、楽園パレードには参加できません」 「……君は何を言ってるんだい?」 いや、だって仮面の男って言ったら。 とりあえず私は何を言い争っていたのかそのABYSS(仮)に聞いてみた。 話によると目の前にいる仮面(略)の名は半兵衛。この養鶏場を切り盛りしているという。それで先程駆け抜けていったのはこいつの親友にして相棒、名を秀吉。何でも彼が大事に育てていた鶏が野犬に襲われて死んでしまったとか。昨日の夜、小屋に戻し忘れてたのが原因らしく、その事を責めていたのがさっきの言い争い。 そこから先は私が見てた通り、秀吉が言うこと言って逃走した……と。 「すまないがさん、秀吉を連れ戻してはくれないだろうか」 「はぁ?なんで私が」 「僕が言ったらまたさっきみたいに喧嘩になるだろうし、僕には過酷な山道を歩くだけの体力がない。その点さんは女性だし体力も僕よりあるだろうし、きっと秀吉を説得できると思うんだ」 「いや私h「秀吉は多分裏山にいると思うからその辺を重点的に探してほしいんだ」 こいつブッ飛ばしてやりてぇ。人の話くらいしっかり聞けよ。習わなかったのか。 だがしかし……これは行かなきゃいけないパターンだな、うん。 しょうがなく私は先ほどのごつい青年……秀吉だったっけ?を探しに裏山へと向かうことにした。 -------------------------------------------------------------------------- ・秀吉出会い編〜あらすじ〜 お気に入りの鶏「かんべえ」の死を嘆く秀吉と、その原因は秀吉にあると叱咤する半兵衛。そのまま口論となり、秀吉は山へと走り去ってしまう。 この様子を見ていたは半兵衛の頼みで秀吉を連れ戻しに山へと向かった…… -------------------------------------------------------------------------- ぶっちゃけ、はやく小十郎さんとこ行って牧場のイロハ教わらなきゃいけないけど、 これから長らくお世話になるであろうお隣さんをこのまま放っておくわけにもいかない。 木こりの忠勝さん家の横を通り、10分くらいであたしは山の麓についた。まずは手近なところからと思い、女神の泉への階段を上ると、泉の前に佇む秀吉を見つけた。どうやら泣いているようだ。 ただ、その姿はお気に入りの鶏が死んだとかじゃなくて、どっからどう見ても朋友亡くした北斗神拳伝承者っぽい。大声は出さず、静かに漢らしく泣く姿は正直女神様がいるっていう泉の前に不自然すぎ。ある意味ファンシーだ。 私は相手に気付かれないようにそっと近付く。近付くにつれて秀吉の震えた声が聞こえてきた。 「……すまぬ、官兵衛。俺の不注意で野犬の犠牲に……!」 やっぱこいつどこぞの愛をとりもどす人だ。台詞が最早渋カッコよく思える。 あまりの漢らしさに私が立ち尽くしていると秀吉はようやくこっちに気付いた。袖で涙を拭きながらあたしに話し掛けてきた。 「お前は……見慣れぬ顔だな。観光客か?」 「あ……私、隣の牧場に越してきたって言います。……その、大丈夫ですか?」 「そうか、町長が言ってた新しい牧場主とは……しかし、みっともないところを見せてしまった。申し訳ない」 秀吉は見た目に釣り合わないほど丁寧に一礼。私が慌てると顔を上げ、恥ずかしげに顔をそらした。不覚にも「なんだ、見た目と予想よりも可愛いじゃないか」とか思ってしまった。ギャップ萌えか、これがギャップ萌えというやつなのか!?萌えの恐ろしさをまさかこんな所で知ることになろうろは思いもしなかった。 あまりの事に思わず脳内環境が大変なことになっている私に対し、秀吉は少しさみしそうな顔で泉の方を見た。ほんの少し赤い目元にはまだ涙の跡が見える。相当気に入っていたのだな、と改めて感じた。 「あの……」 「ああ、いや、すまない。気に入っていた鶏が俺のせいで死んでしまってな。……少し、一人にしてほしい」 そう言って秀吉は私から完全に視線を逸らす。泉を見る横顔は沈んでいるが、口元にのみ笑みを残している。 だめだ、放っておけない。もう小十郎さんどうでもいい気がしてきた。 だからといって私ができることなんて何もなかった。彼の事情も知らないし、その鶏の事も知らない。 精々わかることと言ったらこの人がどれだけその鶏を可愛がって育てていたか、というくらいだ。 今出来る事は言葉をかけるくらいしかなかった。 「……かわいそうですね。でも、落ち込まないで頑張ってみてください。その子もそのほうがきっと喜んでくれますよ」 あたしのようななにも知らない人間に何かと言われるのはいやかもしれないけれど。 それでも少しは彼の心を楽にはできるかもしれない、そんな安易な気持ちであたしは秀吉に言葉を投げかける。 返事を聞くのが怖かったから、あたしはそのまま急ぎ足でその場を立ち去った。 しばらくしたらきっと家に戻っているだろう。また時間を置いて、会いに行ってみようかな。 -------------------------------------------------------------------------- 「……行ってしまった、か」 遠のく背中を見つめ、秀吉はため息をひとつ。 彼女の言葉を聞いて秀吉は自分の今までの行動を振り返る。目を閉じ、いなくなってしまった一羽の姿を思い出すと先程までの自分が馬鹿らしく思えた。 ああ、そうだ。俺が一人落ち込んでどうする。 彼女の言葉を肯定するように秀吉はゆっくりと瞼を開いた。 「……そうだな。こんな俺を見ても、官兵衛は喜んだりはしないな」 ――礼を言わねばな。 笑みが口元から広がり、秀吉は泉から去っていく。気がつけば彼の表情には一遍の曇りもなくなっていた。 >>>BASARA3が出る前に考えたストーリーだったんですが、気付いたら官兵衛がベストポジについてました。 |