授業が終って、掃除が済んで、人のいなくなった教室。
夕日が差し込んでほんのりオレンジ色の教室にはあたしと、隣の席の男の二人きり。
その隣の奴が、慶次が、髪を触ってもいいかと聞いてきた。
何が楽しいんだろうか、この男。とりあえず許可すると髪を撫でてきた。
……それが、今から軽く十数分前。
「けーじ」
「ん?なにちゃん?」
未だに延々慶次は髪を撫でていた。
掌で撫でまわして、指先で梳いて、それの繰り返し。
何が楽しいのかさっぱりわからないが本人ずっと笑顔のままだ。
「けーじ、楽しい?」
「うん、楽しい」
会話はそこで止まって、今度はあたしの髪を弄る。
肩に届く程度の髪ではたいした髪型なんてできない。
ただ、髪の引っ張られる感覚から察するに延々あみこみを作っているようだ。
いったいあたしの頭をどうするつもりなんだこいつ。レゲエな感じにするつもりか。
「けーじ」
「あー、今動かないで!崩れちゃう!」
仕方なしにじっとしている。
と言うかなんだ。なんか悔しいぞ。なんであたしはこいつに遊ばれなきゃならないんだ。
なんだかこのままってのも癪だ。せっかくだからあたしも慶次で遊んでやろう。
「けーじ」
「なにぶっ!!?」
仕返しにと頬を両手で挟み込んでやった。男のくせにやけにふにふにしてる。
あーうらやましいな、なんだよ髭とかそういうのはないのか?つるつるじゃないの顎。
「……ちゃん……」
「ずるい。ヤローのくせにすべすべ」
そのままむにむにと頬を引っ張ってみる。ふにーっと伸ばしてみる。
慶次は困ったような顔はしているが抵抗はしてこない。
面白いからとそのままうにーっと頬を持ち上げてみる。
すると慶次もあたしの頬をつついてきた。
つまんで、そのまま引っ張って、あたしと同じ事をしてくる。
「なに」
「ちゃんがしてくるからだよ」
「だって、やられっぱなしヤだし」
「俺だって」
そのまま暫くはお互い頬をつつきあいをやり続けていた。
やってやりかえされて、それの繰り返し。いつも通り、夕暮れの教室での一幕。
面倒なことにお互い負けず嫌いなもんだからいつまでたっても決着がつかない。
とりあえず5時のチャイムが聞こえたら止めてはいるが、今までまともな決着なんてついたことがない。
今日も同じ。
頬を引っ張り合うのに飽きたら次は何をしようか。そんなこと考えている。
すると今日は珍しい。5時のチャイムを前に慶次の方が先に手を離した。
と思ったら次は教室の入口あたりをじっと見始める。
「どしたのけーじ」
「……いや、なんか人の気配。気のせいかも」
「そっか。…………」
そう言えば今日は執行部で集まるとか言ってたけど、相談することも報告すること何にもないしなぁ。
まあ、秀吉が何とかしてくれるからいいか。いざとなったら代役に毛利さんでも投げ捨ててくればいいや。
仕方ないさ、慶次が離してくれなかったんだし。不可抗力だよ。悪いとしたら慶次だ。
「悪いのは慶次」で脳内完結するとちょうど5時のチャイムが鳴った。
「ちゃん」
「ん?なに、けーじ」
「今日は帰ろっか」
「そだね」
にかっと笑う慶次につられて笑う。あー、なんだこいつわんこみたいだ。
絶対今、目には見えてないけどレトリーバー系の耳としっぽが生えてるよ。尻尾振ってるよ。
そんなことを考えながら差し出されてきた慶次の手を握り返す。
ああそうだ、せっかくだから寄り道もしてから帰ろう。その方が長く手を繋いでいられる。
無自覚進行恋心
(気付いてない?気付いてない。)
>>>4/30 「放課後いたちごっこ」加筆しました。タイトルも変更してます。
秀吉達は教室入り口まで来てましたが二人の世界に入って行けなかったようです。