おひさまのかおり





質問です。突然見知らぬ人に呼び止められたかと思うと抱きつかれました。
しかも人通りの多い休み時間の廊下で、きっちりとホールドされている且つ、
その人はあたしの首筋に顔つっこんで何だか悦に浸っているような顔をしています。
あなたならどうする?私は笑顔で顔面に一撃入れました。














場所を移動して屋上。
顔面に一撃入れられたそいつは鼻をさすりながらあたしを睨んでいた。


「……痛い」
「文句言う前に一般常識を叩き込んできてください。てかなんですか貴方は」


正直全然知らない人だ。多分同じ学年なんだろうなって事くらいしか分からない。ぱっと見、顔は端正で結構美形。学ランよりもブレザーの方が似合いそうな、優等生タイプの人だ。
そんな人がなぜあんな奇行に走ったのか……あれか?内なるものに覚醒したとか?ぐっと睨み返すとその人は痛みに堪えながら鼻から手を離し、少し表情をゆるめて口を開く。


「我は毛利元就。……そなた、3組のであろう?」
「あ、うん。そうだけど……何?誰情報?」
「……1組の長曽我部だ。腐れ縁でな、以前より噂は聞いていた」
「あーなるほど、西海中の鬼ねー。なら知ってるわけだ……で、抱きついた理由は何」


そう言ったところで毛利さんとやらは視線をそらした。
なんだ、なんか真面目な理由合ったのか?もしかして罰ゲームか何かだったのか?
だとしたら犯人の名前言ってみな?生徒会執行部の名の下にボコりに行ったげるから。


「……香り」
「へ?」


答えは妙なものでした。つかカオリってなに?
もしかしてカオリちゃんって子とあたしを間違えたのか?それであの行動か?だとしたら貴方すっげぇツンデレですね。あ、人前だからデレデレか。そう言おうとしたところで毛利さんの口が動く。


「そなたのその、香りが……離れぬ」


人じゃなかったか。それでも十分に変な理由だ。
あたしの匂いかぐためにあれだけの行動をしたことになる。匂いフェチなんだろうか。つかあたしなんか変な匂いしてるのか?他人が忘れられないくらいの。
香水なんて使ったこと無い……と言うか家に存在しないし。せいぜい匂うものっつったらポプリくらいしかないと思うが……
思わず匂い確認しているところで言葉が飛ぶ。


「日輪の……陽の香りがした」


ひのかおり……その前の日輪って言葉から考えると、お日様のこと?
そこまで考えると一気に匂いの正体が分かった。


(いつも使ってる柔軟剤かあああぁぁぁぁ!!!)


現在我が家の柔軟剤はレ○アの「おひさまのかおり」ってやつだ。
そう言えばこの間、蓋に溢れるくらいの量ぶちまけちゃって……多分そん時だ。でもそんなに柔軟剤って匂いするのか?実際あたし自身はその香りを感知できていない。
むぅ、と首をひねって考えていると、再び毛利さんはあたしに抱きついてきた。胸元……いや、性格にはシャツに顔つっこんで、もの凄く幸せそうな顔をしている。犬かなんかで言う、シッポ振って喜ぶって言うヤツそのまんまだった。
どんだけ好きなんだお日様。とりあえずセクハラではなかった事は分かったが……


「……あの、スミマセンがやっぱ離れてください」
「……暫し、後もう一刻……」
「授業サボる気ですか」


頭をひっつかむと思いっきり力を込めて引き離す。首が「こきゃっ」とかなった気がするがきっと空耳、空耳。
引き離された毛利さんは首の後ろを押さえてぎっとこっちを睨んだ。


「睨んでもダメですよ。あたしそういうの慣れてるから」
「知っている。……ともかくその香り、どうやって手に入れたかを吐け」
「いきなり命令形ですか。……そんなら薬局に売ってるんで買いに行ってください」


そう言ってあたしは踵を返した。もうそろそろ休憩時間が終わる。
次の授業は確か……ああ、みったんの音楽だっけ。移動じゃんか教室。
嫌なんだよなぁ、音楽の授業もみったんも大好きだけどクラスメイトが騒ぐから。
みったん見ながらキャーキャー言って、あたしと仲良くしてるとギラギラ睨んできてさ、めんどくさいなー、だるいなー、そう思っていると後ろから思いっきり髪を引っ張られた。痛い痛い!ちょっとどこの誰だ乙女の命が少し抜けちゃったじゃんか!
とは言え、あたしの後ろにいる人物はたった一人、毛利さんしかいないので軽く肘鉄を叩き込む。
が、今度は見事に防がれてしまった。……もしかして結構喧嘩強いのかな毛利さん。
いやいやながら後ろを振り向くと毛利さんの顔が目先10cmの所にあった。あれだ、後ろから押されたりするとキスとかの距離。よかった周りに人いなくて。
毛利さんはあたしの髪を持ったまま、真剣な眼差しであたしを射抜く。


「……薬局とはどこにあるのだ?」


……薬局の場所知らない人間はじめてみたよお母さん。なんだこの人、どこのお坊ちゃんだ?
このままじゃ埒があかないので、薬局の場所を教えると提案したところ、「つれていって一番良い物を選べ」との答えが返ってきたので(面倒臭ええええ)
しょうがなくあたしは貴重な休日を毛利さんとの薬局デートに裂くことになった。



其れは尊き陽の香り






(嫌な臭いは寄せつけないのに)