目が覚めた。 それまでどんな夢を見ていたのか、眠る前のことすら思い出せないがやけに清々しい目覚めだ。 半身起こして外を見るとまだ薄暗かった。なんだ、まだ夜じゃないか。もう一度眠ろうかと布団に潜ろうとして隣に眠る少女が目に入った。 名は。別に恋人と言うわけではない。しかし友人だとか愛人と言うわけでもない。 は俺を信頼しているから傍にいるのだと言っていた。多分俺も、と同じなんだろう。 と過ごすようになり、どれだけの月日が経っただろうか。 出会って間もない頃はまるで野良猫のように俺を警戒していたあいつも、今では俺の隣で丸くなって眠っている。随分となついたものだ。 「……?」 名を呼んだところで目覚めることはない。一度眠るとベッドから落ちても夢の中で笑っているような女だ。この程度で起きるはずがない。 だが反応はしてくれる。くすぐったそうに笑って、さらに丸くなる。そんな姿すらも猫のように見えて、つい頬が緩む。 髪を指で梳くと寝癖のせいかやけに指に絡まる。それが俺を離さないよう、離さないようにとしているように思える辺り俺も末期だ。 「……」 名を呟きながら指を抜き、顔にかかった髪を耳にかけてやる。幼い顔立ちや薄く紅潮した頬を見る度に、自分と歳が近いことを忘れそうになる。 (というより、この外見で成人してる方がおかしいだろう) 犯罪だ。そう思いながら頬に手を当てる。触れられたのが心地好かったのか、は先程よりもはっきりと笑みを浮かべ、こっちに擦りよってくる。 その笑顔に、かつて遠くから見つめていたこの世で一番愛しい女のそれを重ねてしまう。 俺に向かい微笑むことは一度もなかった。それでも愛していた。 だがとうに手放してしまった。無二の親友に、彼女の隣に並ぶ権利を明け渡した。 悔しくて仕方がない。今でも彼女を愛している。だが届かない。 ――――心が疼く。 「……んぅ」 小さく聞こえたその声に我に返る。は手をすり抜けてこっちに寄ってくると俺に抱きついてきた。胸元に顔を埋めると満足そうに笑んで、規則正しい寝息が聞こえてくる。 ……女としての自覚が全くない。 溜め息混じりにを引き剥がすと、思い出したように俺は外を見た。もうじき日の出だろうか、すでに東の方が白んできている。 このまま起きていようかと思ったが、すぐ隣にある幸せそうな寝顔を見て止めた。能天気な笑顔だ。だが、この笑顔に救われているような気がした。 いつまでも変わらず俺の横で笑ってくれるこいつが、自分には必要なのだと感じているような気もした。 (……まさか、そんなことはないだろうが) 愛玩動物にも似たこいつに多少の癒しを求めているのはなんとなくだが理解している。 だが少なくともこいつを俺は女だとは認めていない。ましてや心変わりなどするはずがない。 それを疲れから来た錯覚だと思い込むことにして、俺は寝転がる。すぐ目の前にはの顔があった。 いつまでたっても目が覚めない平和そうなその寝顔に――その額に軽くキスを落とす。 そしてそのあとに気付く。なんでこんなことしてるんだ、自分。 それがわからなくて妙にむしゃくしゃした。俺はから布団を奪い取り、そのまま目を閉じる。すると小さなうめき声と共に がもぞりと動いた。こんなことで目が覚めたのだろうか。 だが俺には関係ない。お前のせいで俺はまた眠くなったんだと脳裏で呟き、俺の意識は深みへと沈んだ。 ……気付いてたかなぁ。名前を呼ばれてからずっと起きていたなんて。 あんなに優しく囁いてくれるんだもん、気付かない振りしたらもっと呼んでくれるし。 私はその人が起きないように身を起こし、そっと前髪をかきあげると、 気付かれないようその人の頬に、私もキスでお返しした。
(まるで自分のものだと主張するかのように) 微睡む夜明け |
夢主も夢主でほんとはシン大好きだったらいいのに、とか思ってこんなグダグダになりました。 あ、シンと夢主の年齢は各自イメージで補正して下さい!←