前略、親愛なる空条博士へ。相も変わらずヒトデと戯れたりしてるのでしょうか。
私は元気に卒論やる片手間にこのメールを打っています。
最近はやけに涼しくなってきて、野菜の値段が上がり気味です。もうやりくり面倒くさい。

話は変わりますが、確か博士は変な幽霊が見えると言っていましたね。私もとうとう見えるようになりました。
なんだかやけにテンションの上下激しくて、態度でかくて、頭が若干悪くて、ファッションセンスがなんかぶっ飛んでて、挙句自分が死んでいることなど全く分かっていません。
この変な幽霊の対処法を空条博士ならご存知かと思い、この度はメールを送らせていただきました。

、腹が減ったぞ。このディオのためにディナーの用意を」

できればこいつの成仏する方法を、
駄目ならこいつを殴り倒す方法を教えてください。







 * * * 









かれこれ一か月前、私は突然幽霊が見えるようになった。と言っても見えるのは一人だけだが。
バイトから帰ってきたら何故か堂々と人ん家のリビングでくつろいでいる謎の男Aを発見し、背後から一撃かまそうとしたところすり抜けたことからこれが幽霊であることが発覚した。
面倒なことに私の家から出て行こうとしない挙句、「自分は吸血鬼だ」だの「時を止められる」など妙なことを言って私を召使扱いしてもうストレスが貯まる貯まる。最近はあしらい方をそれなりに覚えたから言葉だけで相手を屈服させることができるようになった。
名前は「ディオ・ブランドー」、顔だけは無駄に良かった。

「何をしている。早くディナーを」
「はいはい、ちょっと待ってようね」

宙に寝転び、何気なくつけてたお笑い番組を横目にディオは私に命令する。軽く返事をした後、私は自分の茶碗にご飯をよそって、その山のど真ん中に端を突き刺してディオの前に置いた。

、前菜とサラダと魚介類と肉類とメインディッシュとデザートが足りないんだが」
「幽霊で且つ勝手に家に居座ってる分際で豪勢な飯にありつけると思うなよヴァンピー。白米供えてやってるだけありがたいと思え」
「せめてミソスープの一つはつけないか」
「あんたに飲ませる水分は一滴たりとも存在しないわよ。唾液で我慢しろ」

そういうとあたしは再びパソコンの画面に向き直る。……あー、まだメール送信してなかったっけ。内容と宛先を確認したのち、送信ボタンをクリック。
あの常時不機嫌顔の空条博士がこのメール見てどんな反応するのか楽しみだと言えば楽しみかもしれない。
それにしてもディオの姿を写真に収めることはできなかったのが非常に悔やまれる。添付して送りつけたかった。
あいつどんなに撮っても映らないとか幽霊なら心霊写真レベルにぼやけてでもいいから映れって感じだよ。
画面を切り替え、私は打ち途中の卒論を保存するとゲームの画面を開く。最近のお気に入りはチェスだ。
ぶっちゃけルールなんてわからないけど、駒が動ける場所やヒントは出るし、レベルが低いならコンピューター程度には勝てる。
もしかしたら空条博士からすぐに返事が来るかもしれないからこれでもやって待っていよう。
と思ってゲームを始めたら背後にいつの間にかディオが浮いていた。

、このディオを放置して何をしているのだ?」
「んー?チェスだよ。さすがにあんたも知ってるでしょ?」
「ほーぅ、こんな画面の中でもチェスができるとはな。……どれ、やらせろ」
「全力で拒否る」

言いながらも私は駒を進める。クイーンの前のポーンを動かして2マス、相手が動いたら更にすぐそばのポーンを1マス。

「そんな手では勝てないぞ」
「いーのよ勝てなくても。楽しめれば」
「チェスは戦略だぞ。脳をフルに使って相手の先を読み、勝つからこそ楽しいんじゃないか」
「私にとってはただの暇つぶしだよ。必要なのは直感。どう動いたらどう来るかを見てるだけなの」

ちょこちょこと助言してくるディオをガン無視して続けると、予想通りとしか言いようがない見事な負け。最後はルークとナイト2体とキングに挟まれて見事に身動きが取れなくなった。
ディオは隣で「ほら見ろ」と言いたげな顔をしている。私はそれをさらにスルーして結果画面から新しいゲームをスタートさせた。

、今度はこのディオにやらせろ」
「や」

一言で(むしろ一文字で)断ると引き続き私はディオガン無視でゲームをやり続ける。当然のように負け続け、そのたびディオからの「自分にやらせろ」コールと何とも言えない視線を受け続けることになった。……返事するのが面倒だからずっと無視したけど。
小一時間そんなかんじで二人切なく過ごしていたが、どうも空条博士からのメールは来なさそうだったので卒論を無視してパソコンを閉じた。ずっと無視されつづけた影響か、ディオはちょっとだけしょげていた。面倒だとは思ったけど少しかわいそうな事をしたような気もしたので、何か美味しそうなものでも買ってきて供えておいてやろうと身支度を整え玄関に向かう。
それに気付いたディオは空中三角座りを止めて私の隣にやって来た。

「何処かに出掛けるのか?」
「なんとなく甘いもの食べたくなったからプリンでも買いに行くの。あんたも食べたかったらついてきな」

私の言葉を聞いてディオは無表情のまま周りにお花が飛んでいるのが見えるくらい嬉しそうなオーラを飛ばしていた。……わかりやすっ。
私の斜め後ろから上機嫌でふよふよとついてくるディオは、いつも通りの偉そうな態度で口を開く。

「やはり、貴様の事がわからん」
「私だってあんたの事がさっぱりわかんないわよ」




不透明度100%の同居人

(本当は結構理解している、つもり。)