「君、ホント好きだよネ」

不満そうな声は私のすぐ右側から飛んできた。
今この家にいるのはリビングのソファーに二人、私とアッシュ君だけだ。
買い物から帰って来た私たちはそのままリビングに直行。
お互いそれぞれ買って来たものを広げて好き勝手やること1時間、
私は久しぶりに買ってきたファッション雑誌を読むこと早4冊目。かまってもらえなくて拗ねているのだろうか。まあ彼はたかだか数十分無視していても平気な人間だ。
機嫌が悪いのはきっと新しく買ったネイルエナメルの色が予想以上に自分好みじゃなかったからだろう。
私は視線は雑誌のまま彼の問いに疑問を投げ掛ける。

「何が?」
「イチゴ味」

3文字の疑問に5文字の回答が帰ってきた。
確かに私はイチゴ味が大好きだけどそれが今なんの意味があるのだろうか。
私は軽いノリで肯定すると次のページを捲る。
どうやらお気に入りブランドの新作スカートは私の好きなチェックが多いようだ。
通販にするか店に行くかを考えていると、右側から再度不満そうな声が放たれる。

「あのさ、僕の話聞いてる?」
「あー、聞いてるきーてる」
「ウソツキ、こっち向かないじゃん」
「話は聞いてるって」
「じゃあ答えてヨ。イチゴ味、なんでそんなに好きなのさ」

肩に重さを感じると同時に、彼のふんわりセットされた髪が触れる。
どうやら暇潰しの対象は自分の爪から私へと移行したようだ。
自分の頭を彼の頭へと傾けると、私は仕方なしに意味なく投げかけられた質問に答える。

「イチゴ味ってほら、本物のイチゴの味しないじゃん?」
「アー……なんか甘いけど本物の苺とは似てるような別物のような……」
「そうそう、それなのに堂々『イチゴ』って言い張るところが好きかな」

間。

「味じゃないの?」
「味も好きよ?」

イチゴに近くて遠いあの味を、誰もが『イチゴ味』って言うところとか。
付け加えた後に沈黙が少々。
彼が口を開く。

「……やっぱ君、変わり者だネ」
「その変わり者と一緒にいるのはどこの誰?」
と一緒だと日々新しい発見と驚きがあるからネ」

飽きないんだ、と付け加えるとアッシュ君は勝手に次のページを捲る。
指先に塗られたマニキュアはホワイトにラメ入りピンクのグラデーション。成る程、似合わない。
視線を雑誌に戻すと引き続きスカートのページ。今度はフリルのついたものやミニスカートが多い。

「あ、これとか似合うんじゃない?」
「少なくともアッシュ君には似合わないね、そのネイルアートと同じで」
「コレはなら絶対似合うヨ。そのために買ってきたんだから、この色」
「じゃあ今度これ買いに行くときは塗ってね」
「はいはい、わかったわかった」

するりと腕を絡ませてきた彼はくすくすと笑い声を漏らしながら私の爪先を見つめていた。
彼の声は、ようやく上機嫌になっていた。






(ああ、あんな話したからイチゴ味が食べたくなってきたじゃない)