「愛してるよ」


耳元で優しく囁かれる愛の言葉。
逃がさない為にか肩を抱かれ、手には飲めない赤い液体。
ほんの僅かな苛立ちと焦りの中、彼女は人を待つ。

























「てかロミ男さん。遊び半分に口説くの止めてください」
「遊びじゃないって。君の将来のために予行演習をしてあげてるまでさ」


よい子は確実に眠ってるような時間、はとあるホストクラブにいた。
まだ高校生であるなら本来入ることは出来ないが今日は特別。
彼女は人に頼まれ、ある人を迎えにこの店まで来たのだった。
最初は外で待つと言ってはいた。しかし春と言えど夜は冷え込む。
しかも相手はホストの皆皆様、女性を寒空の下放っておくはずもなく
結果暖かな店内でその人を待つことにした。

その人とは……


(ミサキ姉ぇ、早く帰って来てよ〜〜!)


ハヤトの姉、人気モデルのミサキ。
別にミサキはホストには興味はない。ただ知り合い(と言う名の元パシリ)のロミ男もいると言うことでこの店に来ているらしい。
が、今日に限ってなかなか帰ってこない。
何があったか、もしくは何かやらかしているんじゃないか。心配になったハヤトに本気で頼み込まれ、はしょうがなくホストクラブに潜入した。
因みにに頼んだのは他に頼める人がいなかったから。ハヤト自身は店先で二人が出てくるのを寒空の下待っている。


「にしても助かったよちゃん。ミサキに仕事の愚痴聞かされる時は、彼女が酔い潰れるまで延々と相手させられるからさ」


断れないし、参っちゃうよ。
そう一言付け加えるとロミ男は手に持つワイングラスに口をつけた。
濃厚な葡萄の味と香りが口腔を満たし、喉を潤す。
も同じグラスを持ってはいるがそれはミサキに手渡されたもの。
決して飲めないが、暇潰しに光に透かしてみたり、香りを堪能してみたりしている。
そんな様子を見て、ロミ男は小さく笑った。子どもだと。
彼女を自分の方に引き寄せ、視線を合わせ明るく話す。


「でもちゃんと話せる機会が出来た分、今日の愚痴はチャラにしておこうかな♪」
「またそんな……あたしみたいなのを口説いて楽しいですか?」
「そりゃもう。君みたいな子、ここには来ないからね」


そこまで言ってロミ男は口をつぐんだ。
から目を反らすとぼんやりと店内を見渡す。
偽物の愛に悦びを感じる人、自らの財力を誇るためだけにやって来た人、
彼女たちが行うのは全ては見返りを求める行為。
正直な話、ロミ男自身が求めているのはそういうものじゃない。


(もっとこう、純粋な恋愛してみたいんだよなぁ……)


隣にいてくれさえすれば何もいらない、そんな甘ったるい台詞を心から言えるような恋愛。
そう思う。
しかし結局は自分も客としてやってくる彼女たちと同じなのだと溜息。
そう言う人間の中で、この隣にいる少女は何の見返りも求めない。

……まぁ、頼まれて来ただけだしね。

ふ、と頭を言葉が浮かび、横切る。
そしてそれが刹那に消えた後、彼は再びに目を向けた。
会話が途切れたため、既に興味はロミ男ではない別のものに向けられている。
机の上に置いてあったワインのメニューを手にして、値段を見る度目を丸くしていた。
見慣れぬ金額に驚く彼女の素振りはまだ子どもだ。
だからこそ。そう思いながらロミ男はそっと耳元に不意打ち。


「君が愛しくてしょうがないよ」


突然の言葉には体をこわばらた。
想像通りの反応を見せるにロミ男はくくくっと悪戯っぽく笑う。
なんて可愛いんだろう。
興味の外からの攻撃に頬を膨らませながら反論してくる。


「ロミ男さん、そう簡単に『愛しい』とか『愛してる』って使わないで下さい!」
「なんで?これは僕の素直な気持ちだよ?」
「〜〜〜〜っ!それでもなんか嘘っぽいです!」


眉間に皺を寄せ、少しだけ目を細め、ロミ男を見つめる。
それに……と、ここでは一息吸い、続け


「何百回も愛してるって言われるより、たった一回好きって言われる方があたしはいいです」


むくれた。
言いたいことを言って、それでもなおすっきりしていない。と言った感じだろうか。
ワインのメニューを机に置くと席を立ち、ミサキが入りっぱなしのトイレに足を進めた。
ロミ男は言われるだけ言われてなお現状を理解できない。と言った表情で離れていくの背を見送った。
その後トイレにて爆睡していたミサキを連れては店を去った。
残されたのは飲みかけのワイングラスと酔った男が一人。









翌日、の家に何十輪と束ねられた赤い薔薇が送られてきた。
「また遊びにおいで」と書かれたメッセージカードと共に。



純粋な君へ

(そんな君に惚れてしまったんだ!)


2010/06/01  旧サイトから。微妙に手直しして後は放置。
もともとは自作台詞お題から作ったベリーショートだったもの。
……まさかお題と同じようなタイトルで曲でてるとは思わなかった……
うちのロミ男は純愛マニアです。家には少女漫画も転がってます。