目が覚めた時、部屋がいつもと少しだけ違っていた。
別に家具を動かしたわけじゃない。ただ、机の上に昨日の夜にはなかったものがある。


(あれ?…………あんなものなかった、よね?)


まだ疲れの残る体を起こし、たどたどしい足取りで机に向かう。
机の上にあったもの――薄いブルーの紙に包まれた謎のプレゼント。
ピンクのリボンがやけに可愛いそれを手に取る。
重さは感じないうえやけに薄いそれに対して嫌な予感が全身に走るのをはっきりと感じる。
ノンストップ冷や汗。

(てか、こんなこと出来る人なんて限られてるよね〜……)

と、プレゼントが置いてあった場所に何かがある。
メッセージカードのようだ。
これまた可愛いピンクの縁取りが施されたメッセージカードがある。
それには丁寧かつ綺麗な字で「へ」と書かれている。
差出人の名は…………ない。
あたしは左手にプレゼントを持ちかえ、右手で二つ折りにされたカードを開く。
書かれていたのはたった一行。


『感想、楽しみにしているぞ』


ご丁寧に文の終りにはハートマークまでついている。
犯人は予想通りだった。
やっぱりヤツか……と軽く鬱になりかけたがぎりぎり持ち直す。
犯人がわかった所で改めてプレゼントを見据える。
贈り主があれだからな……また軽くブルーになる。

…………いや、多分大丈夫、婚姻届けかエンゲージリングか服関係でなければ。
嫌な感覚は止まらないが、とりあえずプレゼントも開けてみることにする。
セロハンテープを慎重に剥がし、包みを開く。
中に入っていたものは………………








* * * * * *







鬱だ…………
なんか自分が嫌になる。
学校に着いてからもあたしのテンションは下がりっぱなしだった。
原因は朝届いた(むしろ置いてあった)プレゼント。
あの中身のせいで今日はやけに落ち着かない。
なんだろう……むしゃくしゃするんだよね。
気持ちを落ち着けようと耳元では延々とお気に入り曲をリピート。
それでも駄目だった。
果てには贈り主の喜々とした顔が脳裏にちらつく。


……あ、やば。何だかいらついてきた。


このイライラ、どこで発散しようか……
あ、確か4時間目が体育だっけ。うん、そこでしよう。
それまでの授業は…………寝てよ。
あたしは机に突っ伏して目を閉じた。

 

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「いっぽおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
「ぐげがああっ!」
「ギタケーーーン!」
「おい、ギタ剣体育館の外に吹っ飛んだぞ?!」
「ふぅ……あたしの間合いに入ってくるのが悪いのよ」
!それは間合いじゃない。殺気だ!!」

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「……ちゃん、ちゃん、大丈夫だった?」
「はぇ?」


4時間目終了後、あたしは気が抜けていた。
先程の授業で溜りに溜ったストレスを一気に発散し、
まさに魂を使いきったような感じになっていた。
そんな様子を心配してくれたのか、目の前にはリゼットちゃんとリサちゃんがいる。
にしても、まぬけた声で返事しちゃったな…………


「なんかさ、さっきの体育、剣道選択の方で怪我人でたらしいけど」
「そうそう、人一人吹っ飛んだんだって?怖いなぁ……平気だった?」


あ、それ犯人あたしです。
なんて素直に言えるはずもなく、とりあえず「大丈夫だったよ」と笑顔。
でも二人の顔から心配の二文字は消えない。
リゼットちゃんはそれに、と付け加えると話を続けた。


ちゃん朝から元気なさそうだったし……何かあったの?」
「あ、いやその……ちょっとね」
「あたし達でよければ相談にのるよ?」


優しく笑ってあたしを見つめる二人。……こういう時、本当に友達っていいなって思う。
二人の笑顔を見ていると何となく心が軽くなったような気がした。
そして、二人の親友を前に、あたしは今朝のことを話す決意を固めた。
……これで二人の機嫌が悪くならなきゃいいけど……


「…………また、ユーリが不法侵入してきてさ」
「そういえば……ユーリさんちゃんのこと気に入ってるんだっけ?」
「今朝は目が覚めたら机の上にプレゼントがあったの」
「え、なにストーカーかなにかのアプローチ?」
「いや、多分今回は違う」

目の前の二人は首を傾げているので、あたしは授業中以外ずっと聞いていたMP3プレイヤーを取り出した。
曲名を確認するとイアホンを二人に差し出す。


「これ聞いて?」
「?…………うん」


二人がイアホンを耳にはめると再生ボタンをプッシュ。
自分ではわからないが恐らく流れているであろうその曲を、
二人が聞いている横で思い出す。
それは――――


「これって……Deuilの新曲だっけ?」
「へー、何かホントにヴィジュアルっぽいね〜。これがどうしたの?」


何だか普通の反応を返されて少し困った。
これはあたしが過剰反応しすぎてるせいなのか?と思いつつも周りに聞こえない程度の声で答える。


「カッコイイの」
「「?」」
「不覚にもあたし好みの曲なの」
「そ、それがどうしてそんなに?」


確かに普通なら喜んだりするさ。
自分好みの曲のCDを、歌作った本人がわざわざ持って来てくれるなんて。
だがあたしは違う。
作った本人の性格(性質?)を知っているが故に素直には喜べないのだ。


「だってユーリの事は嫌いなのに。つかアイツ性格アレなのに音楽センスはすごくいいの」


よく家に不法侵入するし、疲れてるのに真夜中に叩き起こして話し相手させられるし、本当に嫌なやつなのに。
歌声はすごく綺麗で、歌のクオリティは高い物が多くて、賞賛せざるをえない。
それがくやしくてしょうがない。


「歌のことで嘘はつけないからさ……きっと今晩あたり感想聞きに来るだろうし」


あの殴りたくなる笑顔を前に、あたしは歌の感想を言わなければいけないだろう。
……素直に言わなきゃいけないのがかなりきつい……
でも素直に言わなきゃ言わないでどこが悪いのかとかどう直せばいいとか聞いてくる。
あたしの話は終わり、二人は微妙な顔をして「とりあえず、頑張って!」と言ってくれた。
あたしが小さく礼と感謝の言葉を述べると二人はそそくさと購買にお昼を買いにいってしまった。
……まあ、反応返しづらいのはわかってたけどさ。
ともかく二人の言葉通り、「とりあえず頑張って」みようか……

机に突っ伏して、今晩の反応をどうしようかと考えることにした。





(あのさ、ちゃんってユーリさん結構好きだよね?)
(だろうね。…………もしかしてツンデレってやつ??)








イライラの理由



(クラスメイトのつぶやきは、本人に聞こえることのないまま。)